試乗インプレッション

トヨタ「クラウン」の個性的な3種類のパワートレーンを一気乗り!

2.5リッターと3.5リッターのハイブリッド、2.0リッターの直噴ターボ

大きく変わった内外装

 乗り継ぐユーザーの多い「クラウン」であればなおのこと、今回のモデルチェンジがかつてないほど大がかりなものであることから、実際にどうなのか気になっている人も少なくないことだろう。

 スタイリングがこうなることは、2017年秋の東京モーターショーでも明らかにされていたわけだが、こうして実車と対面すると、いろいろと思うところもある。ほかの車種ならいざしらず、クラウンでシックスライトを採用するとはずいぶん思い切ったものだ。

 確かにスタイリッシュには違いない。流麗でスポーティな意匠を追求した結果、従来のような太いCピラーをやめていこうということになり、さらにはベストな1台をとの思いから複数のタイプを作り分けることをせず、これ1本に集約したと開発関係者は述べていた。しかし、個人的には「RS」のようなキャラクターなら似合うものの、おとなしめのモデルにはやや不似合いなように感じてしまったというのが正直なところ。ユーザーの反応も気になるところだ。

TNGA(Toyota New Global Architecture)に基づきプラットフォームを一新したトヨタ自動車「クラウン」。ボディサイズは4910×1800×1455mm(全長×全幅×全高。4WD車の全高は1465mm)で、ホイールベースは2920mm。ニュルブルクリンクサーキットで走行テストを行なうなど走りに磨きをかけたほか、全車で車載通信機の「DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)」を標準装備してコネクティッドにも注力された

 一方、これはよく考えたなと感心したのが、従来型のロイヤルとアスリートを掛け合わせたようなフロントマスクのデザインだ。新鮮味もありつつ、クラウンらしさもしっかり表現できている。従来のイナズマ型はやりすぎだと筆者も感じていたし、実際にもそういう声は少なくなかったらしいのだが、これなら嫌悪感を抱かれることもないだろうし、スタイリッシュによくまとまっていると思う。

 全面刷新されたインテリアも、クリーンで上質な雰囲気に仕立てられており、さらにはカーボンやバックスキンなどを駆使して、それぞれのグレードに相応しいさまざまな表情が与えられていて好印象。リッドの動きにまでこだわったというドリンクホルダーも面白い。シートに収まると、シックスライトの恩恵もあってか、全方位にわたり視界が良好で開放感も高いことが分かる。

 これは!と感じたのが、センターのデュアルディスプレイだ。奥の画面は視認性がよく、手前はタッチパネルになっているというのが画期的。また、ドイツ勢によくある遠隔操作系は実は使いにくくて(とくに右ハンドル車)、クラウンのように年齢層の高いユーザーの多いクルマであればなおのこと、これが直感的に操作できてベストだと思う。

 リアシートもリクライニングが可能で、ニースペースやヘッドクリアランス、横方向の広さも十分に確保されている。トランクの中も含め、車内のあらゆるところについて、どうなっていると使いやすいのか本当によく考えられているように感じられた。

クラウンのインテリア。撮影車両のRS Advanceはシート表皮にブランノーブ+合成皮革を採用。ナビゲーションなどが見やすい遠方の8インチディスプレイと、エアコンや走行モード切り替えなどが操作しやすい手前の7インチディスプレイの2つを連携させたダブルディスプレイとした

2種類のハイブリッドの違いは?

最高出力135kW(184PS)/6000rpm、最大トルク221N・m(22.5kgf・m)/3800-5400rpmを発生する直列4気筒 2.5リッターエンジン「A25A-FXS」型に、最高出力105kW(143PS)、最大トルク300N・m(30.6kgf・m)を発生する「1KM」型モーターを組み合わせるハイブリッドモデルの「G」(562万1400円)。切削光輝+グレーメタリック塗装アルミホイールに215/55 R17サイズのタイヤを装着。撮影車のボディカラーは新色の「プレシャスガレナ」
最高出力220kW(299PS)/6600rpm、最大トルク356N・m(36.3kgf・m)/5100rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッターエンジン「8GR-FXS」型に、最高出力132kW(180PS)、最大トルク300N・m(30.6kgf・m)を発生する「2NM」型モーターを組み合わせるハイブリッドモデルの「G-Exective」(718万7400円)。G-Exective専用のノイズリダクションアルミホイール(ブラックスパッタリング塗装)に225/45 R18サイズのタイヤを装着。撮影車のボディカラーは「プレシャスシルバー」

 今回は、タイプの異なる3グレードを短時間ずつではあるがドライブした。3台に共通して感じたのが、まず出足の軽やかさと滑らかさだ。極めて上質で高級感がある。静粛性も極めて高く、よくできていた従来型に比べてもさらにレベルアップしている。

 さらにはステアリングフィールが良好であること。TNGAにより土台がしっかりしたことに加えて、ダブルジョイント化したフロントサスペンションが効いてか、接地感が高く、しっとりとした上質なフィーリングに仕上がっていて心地よい。

 3種類用意されたパワートレーンとドライブフィールの性格はそれぞれだ。「カムリ」のものを縦置きにした売れ筋の2.5リッター直4のハイブリッドは十分な動力性能を持ち、試乗車が17インチタイヤを履いていたこともあり快適性も上々。最も中庸な印象ではあったが、その中でも前で述べたような走りのよさはヒシヒシと伝わってきた。

 さらに、レクサス「LC」や「LS」と共通の3.5リッターV6のハイブリッドは加速力が段違い。こちらはATベースなのでダイレクト感もある。もっと重量の大きいLCやLSへの搭載を想定して作られたシステムを、はるかに軽いクラウンに積んだのだから、それはもう速くて当然といえば当然だが、よくぞこうした仕様をクラウンにも設定したものだと思うほど。これが果たしてクラウンに必要なのかという気もするところだが、トヨタ最強のハイブリッドパワーユニットをなんとか積みたいという、クラウンにかけた開発チームの心意気を感じる。

既成概念を打破する2.0リッターターボ「RS」の走り

最高出力180kW(245PS)/5200-5800rpm、最大トルク350N・m(35.7kgf・m)/1650-4400rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンの「8AR-FTS」型を搭載する「RS Advance」(559万4400円)。トランスミッションは8速AT。RS仕様専用アルミホイールに225/45 R18サイズのタイヤを装着。撮影車のボディカラーは10万8000円高のオプションとなる「ジャパンカラーセレクションパッケージ」の「茜色(あかねいろ)」

 そして、2.0リッター直噴ターボエンジンは、走り系の「RS」だったのだが、ドライブフィールはやはりハイブリッドの2モデルとはかなり異質。従来型の途中で同エンジンが追加された当時は、クラウンの場合はやや控えめな印象があったのに対し、新型は力強さを直感させる性格が与えられていて、音についても静粛性が高い中にも、あえて走りを意識させる低いサウンドを乗員に伝えようとしていることがうかがえる。

 ハンドリングも圧倒的に軽やかでロールが小さく、ステアリング操作に対する応答性が俊敏でノーズが素直に向きを変えるので、より気持ちよくコーナリングできるのはRSならでは。その走り味はクラウンの既成概念を打ち破るものだ。ただし、ひきしまった足まわりの乗り心地はだいぶ硬め。クラウンの一員としてはどうなのかという気もしたものの、より走りに特化したクラウンとして、これぐらい思い切った味付けもアリかと思う。

 そんな大きな新しい一歩を踏み出した15代目クラウン。トヨタではクラウンの若返りを目指しており、それがどのくらい実現できるのかは受け取る側にもよるのでなんとも言えないが、クルマ自体にはしっかりその用意ができていることはよく分かった。かつてない数々の挑戦と取り組みがクラウンを大きく変えたことは間違いない。

試乗会の会場にはクラウンに採用された技術を紹介するカットモデルが展示された

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛